2010年10月

ここでは、2010年10月 に関する情報を紹介しています。

内言とは


言葉には意思伝達機能の他に、感情発散などの機能もあります。

そして、意外と知られていないのが、「思考」のための機能です。私たちは考える時、頭の中で言葉を用いています。これを専門的には「内言」と言います。

落ち込んだ時、怒っている時、傷ついた時、誰かを心の中で非難している時、私たちの頭の中にはどんな言葉が渦巻いているでしょうか?

「どうせ私はだめな人間だ」「あいつはだめだ」「嫌いだ」「希望はないよ」「もうおしまいだ」「できない」「赦したら負けだ」「失敗したら大変なことになる」。

否定的な気分になる時は、おそらく例外なしに私たちの頭の中には否定的・破壊的な内言が飛び交っているのではないでしょうか。否定的な内言(考え)は、否定的な感情を生み、さらに否定的な行動の母体となります。

うつ病の人の内言


特に、うつ病の患者さんの頭の中には、常に否定的な言葉(自分を責める言葉とか、もう希望は何もないんだというような言葉)が渦巻いています。周りの人は、患者さんが仕事や学校に行かず、一日中寝ているから、十分休めているはずだと思うかも知れません。しかし、患者さん本人は、頭の中に渦巻く否定的な言葉の嵐に翻弄されて、ちっとも心が安まらず、一日中ベッドの中にいてもくたくたになってしまうのです。

そして、それがひどくなれば、自傷行為や自殺へと発展することもあります。

病院では、抗うつ剤や睡眠薬などの薬の力を借りることで、少し休むことができるように助けてくれます。

また、特に認知療法という精神療法では、頭の中に渦巻く否定的な言葉を言語化(意識化)し、検討し、よりマイルドな言葉(より合理的で、自分や周りの人にとって楽な言葉)に切り替えていきます。

支える家族の内言


うつ病の患者さんを支える家族や恋人・友人も、落ち込んだり、イライラしたり、不安になったりしますね。このブログを読んでおられるあなたも、きっとそういう思いに苦しんでこられたことでしょう。

今日まであなたは、患者さんのことをがんばって支えてこられたはずです。しかし、なかなか思うように患者さんが良くならないと、ついつい否定的な気持ちになってしまうものです。私もそういう方々から、コメントやメールをたくさんいただいてきました。

患者さんだけでなく、患者さんを支えている家族や恋人・友人も、否定的な気持ちになるときには、頭の中に様々な否定的な内言が渦巻いています。それを前向き・肯定的・積極的な内言に切り替えていくことで、心に元気や希望を取り戻すことができ、新たな気持ちで患者さんや生活に向き合っていくことができるようになります。

では、そのためにはどうしたらいいのでしょうか。

(1) 聴いてもらいましょう


まず、カウンセラーとか、信頼できるお友だちとかに、自分の頭の中に渦巻く否定的な言葉を、たくさん聴いてもらいましょう。

その際、すぐに説教する人は、この場合の聴き手としてはふさわしくないので、避けてください。黙って聴いてくれそうな人を選びましょう。そして、「愚痴をこぼしたいだけだから、私が『どうしたらいい?』って尋ねるまで、黙って聴いてね」とお願いしてから、語り始めましょう。

不思議なもので、聴いてもらうだけで、ずいぶん気持ちが楽になるはずです。

そう、このブログでは、「患者さんの言葉を直さないで、受容的・共感的に聴きましょう」ということをお勧めしているわけですが、あなたも他の人にそうしてもらうと、たくさんのエネルギーを受け取ることができます。

エネルギーが必要なのは患者さんだけではありません。あなたもそうです。患者さんをがんばって支えているあなたも、受容的・共感的に聴いてもらうことで、たくさんの慰めや勇気を受け取ってください。

紙に書き出しましょう


誰かに話をすると、最初はごちゃごちゃして訳が分からなかった内言が、だんだんとはっきりと明確化されていきます。それを、紙の上にどんどんと書き出しましょう。

頭の中に渦巻く言葉を、紙の上に書き出すというのは、ふさわしいカウンセラー役の人がいないとき(愚痴をこぼす相手がいないとき)にも、実行することができます。

最初はちゃんとした文章になっていなくてもいいので、どんどんどんどん紙の上に書き殴ってください。

そして、ある程度書いたら、それをじっくりと眺めてみましょう。別に読んで反省なんかする必要はありません。ただ「ああ、そうか。私はこんなふうに考えていたのか。だからこんなふうに感じるんだな」というふうに。

すると、他の人に話を聞いてもらったときと同じように、気持ちが整理されてきて、それに従ってずいぶん否定的な気持ちが落ち着いてきます。

別の言葉を考えてみる


話を聞いてもらったり、紙の上に書き出したりして、自分で自分の否定的な内言が意識できるようになれば、今度は別の言葉に言い換えられないか考えます。

たとえば、「もうおしまいだ。このままでは一家が路頭に迷ってしまう」などという内言が意識できたとします。もし、この言葉通りだったら大変ですね。焦ったり、希望をなくしたりするのは当然です。

でも、本当にこの言葉は正しいでしょうか。路頭に迷う以外の未来の可能性は、本当にないのでしょうか。そうならないように助けてくれる人や公共機関は本当にないのでしょうか。そういう助けがあることを知らないだけで、実際には探してみると結構「何とかなる」ものなのかもしれません。

そこで、「いざとなれば、結構何とかなるものだ」という新しい言葉を考え出します。以前よりも、少しだけマイルドな、すなわち自分を励ましたり、やる気を引き出したりするような、自分に優しい、そして力強い言葉です。

新しい言葉をリピートする


自分に優しく力強い、新しい言葉を考えついたら、それを繰り返し自分に語りかけます。信頼できる人に伝えて、あなたの代わりに語りかけてもらってもいいでしょう。あるいは、カードに何枚も書き出して、家や職場のあちこちに貼り付け、いつも目につくようにしておくのもいいでしょう。

そうやって、繰り返し繰り返し、新しい言葉をインプットします。すると、だんだんと古い否定的な言葉が追い出されていき、新しい前向きな言葉が内言として定着していきます。

それに伴って、今までとは違う、前向きな気持ちが生まれ、前向きな行動につながっていくでしょう。

もしも、患者さんと向き合っていく中で、否定的な気持ちにとらわれて困っておられるようでしたら、この方法を試してみてください。

注意


こういう感情のコントロール方法は、うつ病の患者さんには勧めないでください

今回紹介した方法は、うつ病の治療で効果を上げている「認知療法」の応用です。しかし、この方法をうつ病の患者さんに用いるには、必ず専門家による指導が必要です。

というのは、「紙に書く」とか、「新しい言葉を考える」とか、「それを何度もリピートする」とかいうのは、うつ病の患者さんにとっては、かなりのストレスになります。下手をすると、かえって精神的にくたくたになったり、余計に自分を責めるような内言を生み出したりするようなことになります。

ですから、うつ病の患者さんについては、認知療法の訓練を受けたお医者さんやカウンセラーに指導してもらってください。