2010年12月

ここでは、2010年12月 に関する情報を紹介しています。

お願い作戦


自殺しないで欲しい。病院に行って欲しい。ちゃんと薬を飲んで欲しい。食べて欲しい。復職に向けての相談を始めて欲しい……などなど、患者さんに何かをしてもらいたいこと、あるいはやめて欲しいことがありますね。

そんなときは、「お願い作戦」を使いましょうと、このブログではお話ししました。たとえば、この記事この記事をお読みください。

復習のために、もう一度やり方を整理してみます。

1.何が困るのかを整理する


相手のどんな言動が困るのか。そして、それはなぜなのかを整理します。

紙に書き出すといいでしょう。書けないということは、自分でもよく分かっていないということなので、相手はもっと理解できません。そして、紙に書き出すことで、あなた自身も落ち着いてきて、患者さんを責めるような思いが少し静まってくるはずです。

ここで重要なのは、困るのは相手の「行動」であって、相手そのものではないということを確認するということです。相手の行動を改めてもらいたいのであって、相手の人格そのものを否定してるわけではないということです。

どんなに困ることをしでかしているとしても、その人はあなたにとって大切な人ですものね?

2.代わりにどうしてもらいたいかを整理する


困る行動の代わりに、どんな行動をしてもらうとあなたは満足でしょうか。うれしいでしょうか。それを、これまた紙に書いて整理します。

「ちゃんとして」「まじめにやって」というような言い方では抽象的すぎます。「決められたとおりに、病院を受診して」とか「産業医の先生に、復職の時期について尋ねてきて」とかいうふうに、具体的な行動の形で表現します。

3.ストレートに伝えてお願いする


そうしたら、1と2で整理したことを、できるだけストレートに表現して、「私のために~して欲しい」と「お願い」をします。

「~しなさい」というような命令や指示、「~した方が(あなたにとって)いいんじゃないの?」というような主客逆転した言い方、「どうして~してくれないの?」というような責める言い方ではなく、「私のために~してください」「~して欲しい」「~してもらえるとうれしい」というような「お願いする言い方」で伝えます。

お願いを聞いてもらえない理由


ところが、いくらお願いをしても聞いてもらえないということがあります。それにはいくつかの理由があります。たとえば……

上記の手順を踏んでいない場合


自分でよく整理し、準備しないで伝えようとすると、怒りモードのまま話をすることになるかもしれません。そうすると、患者さんは叱られている形になりますから、反発したり心を閉ざしたりします。

相手に求める行動が、ちゃんと「行動の形」で表現されているでしょうか。抽象的な表現になっては、患者さんはいったい何をしたらいいのかが分からず、結局状況は変わりません。

そして、「お願い」の言い方になっているでしょうか。「あなたのためよ」というニュアンスの言い方は、お願いではなくて説教です。お願いは「私のために」というニュアンスの言い方です。だって、あなたが困っているのであり、あなたが患者さんの言動を改めてもらいたいのですから。

患者さんなりの理由がある場合


患者さんの言動の背後には、患者さんなりの理由があります。だから、そう簡単に今の言動を改められない場合です。

その理由というのは、客観的には極めて荒唐無稽な論理かもしれません。でも、患者さんにとっては、至極もっともなものなのです。ですから、まずは患者さんの話をよく聞いて、その理由を共感しましょう。

共感については何度も書いていますが(こちらの記事をお読みください)、それは患者さんの理由付けやその論理が正しいと認めるということではありません。「その考えに私は必ずしも同意できないけれど、少なくともあなたがそう感じる理由は分かるよ」という態度で接することです。

共感しないでいきなり患者さんの論理を否定すると、患者さんはますます自分の考えに執着して、手放せなくなります。ですから、お願いの前に、受容的・共感的に話を聴きましょう。

信頼関係がまだ足りない場合


ご自分のことを考えてみてください。たとえ同じことをお願いされても、相手のことを好きか嫌いかによって、「ぜひやってあげよう」と思ったり、「絶対嫌だ」と思ったりするのではないでしょうか? 患者さんも同じです。

こういうことを書くとショックかもしれませんが、たとえ相手が家族や恋人であったとしても、十分な信頼関係が育っているとは限りません。特にうつ病になると、他人が自分をどう見、どう扱うかということに、敏感すぎるくらい敏感になり、ほんの些細なことに傷つき、心を閉ざします。

その状態では、いくらこちらが理由をていねいに説明して、頭を下げてお願いしたとしても、「嫌だ」と言われてしまったり、言葉では「分かった」と言いながら、結局何も変わらないままになったりします。

お願いの前に、信頼関係の回復から始めましょう。そのためには、受容的・共感的な聴き方をするといいでしょう。このブログでも、「傾聴」「フィードバック」「気持ちを引き出す質問」「共感」などの技法を紹介しています。